大人になってからピアノを始めたいと思っても、「今からでも上達できるのか」「何から始めればいいのか」と迷う方は少なくありません。
大人には、子どもとは違う難しさがあります。その一方で、理由を理解しながら練習できることは、大人ならではの強みです。
この記事では、大人の完全初心者を想定して、必要な楽器、最初の練習方法、独学とレッスンの違い、無理なく続けるための考え方を、実際の指導経験をもとに解説します。
大人からピアノを始めても遅くない
大人になってからピアノを始めると、「子どもの頃から習っていないと上達できないのでは」と不安に感じる方もいると思います。
確かに、大人には子どもより不利な部分があります。
子どもは、見たり聴いたりしたものを感覚的に取り込んだり、同じ動作を何度も繰り返して身体に覚え込ませたりすることに比較的適応しやすいものです。
一方、大人になると、感覚だけで理解することや、大量の反復によって身につけることは難しくなります。
ただし、大人には別の強みがあります。
大人は「なぜそうするのか」を理解して練習できる
大人は、練習の意味や、うまくいかない原因を言葉で理解しながら取り組むことができます。
たとえば、
- なぜこの部分ではテンポを落とすのか
- なぜ片手ずつ練習するのか
- なぜこの指使いにするのか
- なぜ力が入ると弾きにくくなるのか
といったことを理解したうえで練習できます。
ただ回数を重ねるのではなく、「何を改善するための練習なのか」を考えながら取り組めることは、大人の大きな利点です。
子どもと同じ学び方をする必要はありません。感覚や大量反復だけに頼らず、理解を使って練習することで、大人なりの学び方ができます。
年齢以上に大切なのは、実際に取り組むこと
「何歳から始めれば、何年でどこまで弾けるようになるか」を一律に決めることはできません。
練習できる時間も、それまでの音楽経験も、目標も人によって違うからです。
ただ、実際に指導していて感じるのは、ピアノや音楽が好きで、熱心に練習している人は少しずつ上達していくということです。
年齢だけを理由に、始める前から可能性を狭く考える必要はありません。
ピアノを始める前に用意しておきたいこと
ピアノを始めるなら、自宅で練習できる鍵盤楽器は用意したいところです。
最低でも電子ピアノ、可能であれば最初から生ピアノで練習できる環境が理想です。
電子ピアノなら、鍵盤の感触を重視する
電子ピアノを選ぶ場合は、多機能であることよりも、できるだけ生ピアノに近い鍵盤の感触を重視した方がよいと考えています。
電子ピアノと生ピアノでは、音が出る仕組みが異なります。
生ピアノでは、鍵盤を押すことで内部のアクションが動き、ハンマーが弦を打って音が出ます。電子ピアノでは、この過程をセンサーと電子音源によって再現します。
そのため、鍵盤への力の加え方と、実際に出てくる音との関係は完全には同じではありません。
初心者の時期は、どのように指や身体を使うと、どのような音が出るのかを覚えていく時期でもあります。電子ピアノ特有の鍵盤の押し方を身体に覚え込ませてしまわないためにも、できるだけ生ピアノに近い感触のものを選ぶ方がよいでしょう。
ただし、住宅事情や予算によって生ピアノを置けないことは当然あります。その場合は、電子ピアノから始めても構いません。
「いつか弾きたい曲」を持っておく
弾いてみたい曲や、ピアノを始めた理由が明確な人は、練習にも取り組みやすい傾向があります。
もちろん、完全初心者が最初から憧れの曲だけを練習できるとは限りません。
それでも、「いつかこの曲を弾きたい」という目標があれば、基礎的な練習にも意味を感じやすくなります。
初心者は何から練習すればいい?
初心者が最初にやるべきことは、いきなり曲を最初から最後まで何度も弾くことではありません。
レッスンではまず、
- 椅子の正しい座り方
- 楽譜の基本的な読み方
- 指番号
などを確認し、そのうえで片手ずつ実際に弾いていきます。
最初は片手ずつ弾く
ピアノを始めたばかりの方にとって大きな壁になるのが、左右の手で別々の動きをすることです。
右手だけなら弾ける、左手だけなら弾ける。それでも両手を合わせると、片方につられてしまったり、リズムが崩れたりします。
これは珍しいことではありません。
最初から両手で完成させようとせず、まず片手ずつ確実に弾ける状態を作ります。そのうえで、少しずつ両手を組み合わせていく方が効率的です。
弾けないところを、つっかえながら何度も弾かない
初心者の練習でよく見られるのが、弾けない場所を元のテンポのまま何度も繰り返すことです。
途中で止まったり、間違えたりしながら、そのまま何度も同じ部分を通します。
しかし、それでは「うまく弾けない動作」まで繰り返してしまいます。
弾けない場所では、まずテンポを落とします。
そして、1小節程度の短い単位に区切り、その部分だけを確実に弾けるようにします。
1小節ができたら次の1小節へ進み、それぞれが安定してからつなげていきます。
大切なのは、何回繰り返したかではありません。
できなかったことを、できる状態に変えることが練習です。
鍵盤に触る前に、まず音楽をイメージする
もう一つ、初心者のうちから大切にしてほしいのが、弾く前にその曲がどのように鳴るのかをイメージすることです。
理想は、楽譜を見たときに頭の中で音楽が鳴ることです。こうした能力は「内的聴覚」と呼ばれることがあります。
ただ、完全初心者が最初から頭の中だけで正確に音楽を鳴らす必要はありません。
難しければ、まず声に出して歌ってみてください。
音程はおおよそ合っていれば構いません。リズムはできるだけ正確に取り、可能であれば右手と左手、それぞれのパートを歌える状態を目指します。
これを大切にする理由は、頭の中に「こう鳴ってほしい」という音楽のイメージがないまま鍵盤に向かうと、演奏が指や身体の都合に引っ張られやすくなるからです。
楽譜に書かれた音やリズムに反応して鍵盤を操作することが中心になり、音楽そのものを表現する意識が後回しになってしまいます。
まず音楽があり、それを鍵盤上で再現する。
この順番を、初心者のうちから意識しておくことはとても大切です。
大人の初心者は独学でも大丈夫?
音符や休符、拍子、基本的な記号など、楽譜のルールを覚えること自体は独学でも可能です。
現在は教材や動画も豊富なので、基礎的な知識を自分で学ぶことはそれほど難しくありません。
ただし、実際にピアノを弾くことについては、できるだけ最初から指導者に習う方がよいと考えています。
姿勢や力みは、自分では気づきにくい
初心者が自分だけでは判断しにくいものの一つが、身体の使い方です。
姿勢、手や腕の力み、鍵盤への力の加え方などは、音が一応出ていると問題に気づかないまま練習を続けてしまうことがあります。
こうした癖は、あとから直そうとすると時間がかかります。
また、身体に負担のかかる弾き方を続ければ、手や腕の痛みや故障につながる可能性もあります。
初心者のうちから、無理なく弾ける身体の使い方を身につけておくことには大きな意味があります。
「何を練習するか」だけでなく、「どう練習するか」を学ぶ
指導者に習う価値は、正しい音や指使いを教えてもらうことだけではありません。
むしろ重要なのは、自分がなぜ弾けないのかを整理し、その問題に合った練習方法を選ぶことです。
先ほど紹介したような練習方法も、「どの場面で何を使うのか」を自分で判断するのは初心者には簡単ではありません。
指導者がいれば、現在の問題を外から見てもらい、それに合った練習方法を選びやすくなります。
一曲を完璧にしてから次へ進む必要はない
もう一つ、初心者が判断しにくいのが、「どこまで弾けたら次の曲へ進んでよいのか」です。
一曲を完全に仕上げてからでなければ次へ進めない、と考える必要はありません。
特に学習初期は、ある程度の完成度まで弾けるようになったら次の曲へ進み、さまざまなリズム、音型、指使い、両手の組み合わせを経験することも大切です。
もちろん、すべての曲を中途半端に終えてよいという意味ではありません。
「この曲はもう少し仕上げる」「この曲はここまでできたら次へ進む」といった匙加減そのものも、指導者の役割の一つです。
教材についても同様です。
初心者向けの教材は数多くありますが、その人の読譜力、身体の状態、練習時間、目標によって適したものは変わります。
完全初心者であれば、自分だけで教材を決めるより、指導者と相談して選ぶ方がよいでしょう。
大人が無理なくピアノを続けるために
ピアノは、短期間に一気に上達するというより、少しずつ積み重ねることで身についていく楽器です。
理想を言えば、1日10分でも毎日ピアノに触れられるとよいでしょう。
1回の練習時間が短くても、継続的に鍵盤に触れることで、前回やったことを忘れにくくなります。
ただし、毎日必ず練習しなければならないという意味ではありません。
大人にとって、仕事や生活はピアノより優先されて当然です。
忙しくて数日、あるいはしばらく弾けない時期があっても、あまり気にする必要はありません。時間ができたときに、またピアノに戻ればよいと思います。
趣味である以上、練習そのものが負担になってしまっては長く続きません。
高すぎる目標を置かない
大人の初心者が挫折しやすくなる原因の一つが、現在の実力から遠すぎる目標だけを見てしまうことです。
憧れの曲を持つこと自体はとても良いことです。
ただ、その曲だけを目標にしていると、今の自分との距離が大きすぎて、日々の上達を感じにくくなることがあります。
長期的な目標とは別に、現在の段階で取り組める曲を少しずつ増やしていく方がよいでしょう。
以前より楽譜を読むのが速くなった、両手で弾ける部分が増えた、リズムが安定した。
そうした変化も、すべて上達です。
長く続ける一番の理由は、音楽が好きなこと
練習方法や教材も大切ですが、長く続けるうえで一番強いのは、やはり音楽そのものが好きであることだと思います。
上達だけを目的にすると、できないことばかりが気になりやすくなります。
好きな曲を聴いたり、新しく弾いてみたい曲を見つけたり、自分で音を出すことを楽しんだりする。
そうした音楽への興味があるからこそ、忙しい時期があってもまたピアノに戻ってこられます。
理想としては短時間でも継続する。
ただし、できない時期があっても無理をしない。
本格的に学ぶことと、生活をピアノ中心にすることは別です。
大人の趣味として、無理なく長く付き合える距離感を作ることが大切だと思います。
まとめ
大人からピアノを始めるときに重要なのは、子どものように大量反復することではありません。
大人には、練習の理由を理解し、考えながら取り組めるという強みがあります。
まずは練習できる楽器を用意し、正しい座り方や楽譜の読み方から始める。弾けないところはテンポを落とし、小さな単位に分けて確実に練習する。そして、鍵盤を押す前に、どんな音楽にしたいのかをできるだけイメージする。
まず音楽があり、それを鍵盤上で再現する。
その考え方を最初から持っておくことで、単に音を間違えずに並べるだけではなく、音楽を演奏するための基礎を作ることができます。
独学で学べることもありますが、身体の使い方や練習方法は自分では判断しにくい部分です。できれば初心者のうちから指導者に見てもらう方が、余計な癖をつけず、効率よく学びやすくなります。
そして、毎日完璧に練習する必要はありません。
仕事や生活を大切にしながら、できる範囲で続けること。何より、音楽を好きでいること。
それが、大人になってからピアノを長く楽しみながら上達していくための土台になります。
大人からピアノを始めたい方へ
ストライプミュージックスクールでは、ピアノに初めて触れる大人の方もレッスンしています。
正しい姿勢や身体の使い方、楽譜の読み方から、実際の練習方法まで、一人ひとりの経験や目標に合わせて進めます。
本八幡駅から徒歩1分。
